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研究「微生物を利用した省エネ型環境修復と資源化技術の同時実現」

大気、水、土壌における化学物質汚染が報告された後、多くの努力がされて問題解決が図られてきました。大気と水の汚染の問題の多くは解決されましたが、土壌地下水あるいは沿岸底質の汚染の問題は残された課題となっています。また、人間活動から発生する廃棄物や排水中に含まれる有害化学物質の除去は継続的な優先課題となっています。土壌・水・底質の浄化には、微生物を用いた技術が最も安価で効果的として期待されていますが、多くの課題も指摘されています:(1)土壌掘削が不要の原位置浄化(嫌気性微生物反応の必要性)、(2)微生物には難しい複合的な汚染(揮発性有機化合物、ハロゲン化芳香族化合物、重金属、生理活性物質)、(3)反応速度が遅く浄化期間の予測が難しい、(4)適切な養分の継続的添加が必要、などが指摘されています。私たちは、この微生物を用いた浄化技術の課題に関して研究を行っています。最近、土壌や底質中に含まれる固体腐植ヒューミン(あらゆるpHで水に不溶)が、各種の微生物還元反応に対して細胞外電子伝達物質として働くことを世界に先駆けて見出すことに成功しました。発見した微生物と電気の相互作用を利用すると、例えば、太陽電池によって微生物を活性化する新しい生物電気化学システムが期待されます(課題の4番目が解決できます)。私たちは、現在この新しいシステムによって微生物の環境浄化反応やエネルギー創成・資源化反応を促進することを目指して研究を進めています。



1.細胞外電子伝達系を利用した微生物反応に関する研究

 私たちは、嫌気性条件でペンタクロロフェノールを脱塩素する細菌が、土壌の無い培養条件では、その活性を失うことから、土壌中の固体腐植ヒューミンがペンタクロロフェノール脱塩素細菌の電子供与体として機能することを世界に先駆けて見いだしました。つまり、土や底質の中の腐植物質(フミン質)が、嫌気性微生物の電子供与体(すなわちエネルギー源)として働いていることを見出しました。このような現象は、ペンタクロロフェノール脱塩素最近だけでなく、難燃剤の四臭化ビスフェノールAの脱臭素反応、コロイド状鉄酸化物の還元反応、硝酸イオンの還元反応等を担う様々な微生物にみられる現象であることがわかってきました。このことを利用して、電極を用いて還元型の固体腐植ヒューミンを培養系内に維持した生物電気化学システムを作成したところ、嫌気的脱塩素反応や脱窒反応の活性を高めることができました。このことは、小電力によって浄化微生物の活性化ができることを示したものです。このシステムによる硝酸イオンの還元反応の促進にも成功しており、排水処理における硝酸イオンの除去への応用が期待されています。現在、浄化システムばかりでなく、発電や資源化システムの構築につながる細胞外電子伝達を利用する微生物の探索をすすめています。





2. 固体腐植ヒューミンを介した細胞外電子伝達のメカニズムに関する研究

 固体の腐植物質(ヒューミン)は、あらゆるpH条件で水に不溶の腐植物質(フミン質)で、これまでは環境中で不活性なものと考えられてきました。しかし、実際には、嫌気微生物のエネルギー源(電子供与体)として機能していることがわかってきました。そこで、その電子供与メカニズムを解明すべく、いろいろな土壌・底質から固体腐植ヒューミンを採取して、その化学構造や機能の違いを調べています。




. 有害化合物を分解・無害化する微生物群集に関する研究

有機ハロゲン化合物は、遺漏・埋設などによって地下水帯、下層土、底質などの嫌気環境に残留が見られる有害な化学物質です。これに対する汚染対策は、嫌気性微生物を用いた原位置浄化が費用対効果の最も高い技術として期待されています。微生物による有機ハロゲン化合物の分解では、脱ハロゲン反応が物質の毒性低下に最も重要です。そこで、塩素化エタン/エチレン類、クロロフェノール類、ポリ塩化ビフェニル、ダイオキシン類等を嫌気的脱ハロゲン化する微生物群を集積・単離し、その性質を明らかにしています。また、芳香環分解も嫌気条件では遅いことから、フェノール分解を担う菌に関しても集積・特性評価を行ってきました。さらに、複合汚染に対応可能な複合微生物群を人工的に作出することを試みています。水素発生菌、窒素固定菌、脱塩素菌、芳香環分解菌からなる微生物生態系を得て、乳酸の注入によって流れ場でペンタクロロフェノールを完全分解することに成功しています。日本の場合、汚染サイトが陸域だけでなく沿岸域にもみられることから、沿岸域での有害化合物を分解する微生物に関する研究を進めています。

4.その他の研究

a. 微生物反応のモデル化に関する研究

 典型的な土壌地下水汚染である原油汚染を対象に、野外ライシメータ試験を実施して浄化速度予測のためのモデルの構築を行っています。これまでは、油濃度に基づく一次反応速度が用いられることが多く、汚染濃度の高い二次汚染源における分解速度の予測は難しいのが現状でした。これに対して、現地微生物バイオマスに基づいて、モノー式およびロジスティクス式を組み合わせた予測モデルを用いることによって精度良く推定することに成功しています。

b. 放射性核種の土壌中封じ込め技術

 2011311日に起こった東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所から放出された放射性セシウムの土壌中封じ込め技術に関する研究を行いました。二つのアプローチとして、微生物によって鉄酸化物の二次鉱物を生成して放射性核種を包埋する技術と、炭酸カルシウムを生成して地盤の透水性を低下させる技術を試みています。

c. 環境浄化技術のリスク経済評価

 土壌地下水汚染に対する対策のためには、汚染土地所有者(汚染原因者)、住民、地方自治体、対策実施企業などの利害関係者による建設的な議論(リスクコミュニケーション)が必要です。そのために「物差し」として使うことのできる、汚染による健康リスクと対策費用の両者を明らかにする指標レスキューナンバーソイルを提案するとともに、この指標が技術開発における数値目標として使うことを提案しました。また、浄化による消費エネルギー量の評価を可能にするとともに、対策によって発生する二酸化炭素などによって起こる地球温暖化を二次的健康リスクとして評価することを可能にしました。


d. 有機質固体廃棄物の処理

 有機質固体廃棄物の処理技術として広く用いられている堆肥化(コンポスト化)における微生物群を調べるとともに、都市域における有機質固体廃棄物の処理のためのネットワーク化に関する研究を行ってきました。

 


片山新太研究室

〒464-8603
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名古屋大学
未来材料・システム研究所
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501, 502, 503, 702,704号室)